世界の頂点に立ったバーテンダーの父と、看護師の母。4人姉弟のうち3人はバーテンダー、1人は杜氏見習いという一家の長女である綾さんは「家族みんなアルコールを扱っています」と人懐こい笑顔を浮かべます。バーテンダーならずとも、バーに通う人なら知らない人はいないほど偉大なお父様の姿から、迷うことなくこの職業を選んだのかと思われがちですが「絶対になりたくないと思っていました。父は大好きでしたが子どものころはどんな仕事なのか分からず、水商売という偏見から嫌な思いをしたこともあって」と意外な答え。
大学では紛争や女性をテーマにした社会学が専門で、卒業後は海外メディアのジャーナリストとして内定していましたが、やはり尊敬するお父様の仕事を知りたいとバーでアルバイトを始めます。その初日、お客様と接するうち「どこか人間嫌いでもあったのですが、初めて“人として見られた”という実感が湧いてきて…ああ、これは自分はバーテンダーになるなあ、ずっとここにいたいなと思いました」と、すっと決心。その決断に「父は『そうか』と。特に何も言いませんでしたが、嬉しそうでしたね」と当時を振り返ります。